いつかのぼくの誕生日、
ぼくは当時とても大好きだった女性から、
とっても綺麗なリングをプレゼントされました。
彼女は本当にかわいいひとで、
オシャレでセンスもとっても良くって。
なのに対するぼくはその彼女の真逆で、
オシャレなんて本当にわからないし、
ましてアクセサリーなんてつけたことなくて。
でも、そんなぼくに彼女は、そのセンスで、
それはそれは本当に綺麗なリングを選んでくれて。
ぼくは常日頃から、
どうしてこんなに可愛い彼女が、
自分と付き合ってくれているのか、
もう申し訳ないくらいに思っていたのですが、
この時も、まさにもうどうしていいやら。
でもそんなぼくにこんなにしてくれる彼女と、
ぼくには不釣り合いなくらい綺麗なそのリングが、
本当に本当に嬉しかったのを覚えています。
彼女は左薬指にとくれたのですが、
でもそれは少し大き過ぎて、
またぼくも嬉しいながら恥ずかしいのもあって、
結局、右手人さし指にはめることにしました。
でも本当は一番使う指にはめることで、
どんな作業をしても、
リングがわずかの不便をもたらすだろうから、
そのことで、ばかみたいだけど、
彼女のことをいつも感じていたかったんです。
案の定、何かを書く時、何かを食べる時、何かをつかむ時、
どんな時でも右手人さし指のリングはモノとぶつかって、
ぼくに彼女のことを思い出させてくれました。
今まで感じたことのない重みとわずかの不便を、
ぼくは、どんな時も、優しくあたたかい恋慕とともに、
右手人さし指に感じて、時を過ごしました。
それはそれは、夢のような時でした。
そして、その彼女とさようならを言い合ったのは、
それから少し、あとのことでした。
そのリングは今もぼくの右手人さし指にはまっています。
ひとの身体は不思議なもので、
すぐにも異物に慣れることができるのですね。
かつて感じていたわずかな不便も重みも、
もう今では感じることなどありません。
月日が経つにつれて、
身体が慣れ、
異物感は消え失せ、
あの温かい重みも、
だんだんと軽くなっていきます。
記憶が薄れていくのと、
同じようにして。
けれど、今でもふいに思い出はやって来ます。
ペンを握る時、グラスを掴む時、
そんなふとした時に、
もう今ではわずかに感じるばかりのあのリングが、
「コン」とか「チン」とか、
それはそれは、
小さな小さな音をたてるのです。
あの優しくて温かい記憶を引き連れて。
そしてそれがあんまりふいに訪れるから、
ぼくは準備ができていなくて、
少し泣きそうになってしまうのです。
もちろん、その記憶も、色褪せては来ています。
ただ、思いは確かに焼きつけられているんだと、
その小さな小さな音が、
今でもまだ、ふいに思い出させてくれるのです。
かつてはピカピカまばゆいばかりに輝いていたリングも、
今では淡く鈍色に色を放つばかり。
けれど、その忘れ去れ切れはしない、
わずかばかりの重みは、
今も確かに残っているのです。
この、ぼくの、
いつかより節くれだってしまった、
右手人さし指に。