● 鈍色リング 04.10.23(SAT) 
 

いつかのぼくの誕生日、
ぼくは当時とても大好きだった女性から、
とっても綺麗なリングをプレゼントされました。

彼女は本当にかわいいひとで、
オシャレでセンスもとっても良くって。

なのに対するぼくはその彼女の真逆で、
オシャレなんて本当にわからないし、
ましてアクセサリーなんてつけたことなくて。

でも、そんなぼくに彼女は、そのセンスで、
それはそれは本当に綺麗なリングを選んでくれて。

ぼくは常日頃から、
どうしてこんなに可愛い彼女が、
自分と付き合ってくれているのか、
もう申し訳ないくらいに思っていたのですが、
この時も、まさにもうどうしていいやら。

でもそんなぼくにこんなにしてくれる彼女と、
ぼくには不釣り合いなくらい綺麗なそのリングが、
本当に本当に嬉しかったのを覚えています。

彼女は左薬指にとくれたのですが、
でもそれは少し大き過ぎて、
またぼくも嬉しいながら恥ずかしいのもあって、
結局、右手人さし指にはめることにしました。

でも本当は一番使う指にはめることで、
どんな作業をしても、
リングがわずかの不便をもたらすだろうから、
そのことで、ばかみたいだけど、
彼女のことをいつも感じていたかったんです。

案の定、何かを書く時、何かを食べる時、何かをつかむ時、
どんな時でも右手人さし指のリングはモノとぶつかって、
ぼくに彼女のことを思い出させてくれました。

今まで感じたことのない重みとわずかの不便を、
ぼくは、どんな時も、優しくあたたかい恋慕とともに、
右手人さし指に感じて、時を過ごしました。

それはそれは、夢のような時でした。







そして、その彼女とさようならを言い合ったのは、
それから少し、あとのことでした。







そのリングは今もぼくの右手人さし指にはまっています。

ひとの身体は不思議なもので、
すぐにも異物に慣れることができるのですね。

かつて感じていたわずかな不便も重みも、
もう今では感じることなどありません。

月日が経つにつれて、
身体が慣れ、
異物感は消え失せ、
あの温かい重みも、
だんだんと軽くなっていきます。

記憶が薄れていくのと、
同じようにして。







けれど、今でもふいに思い出はやって来ます。

ペンを握る時、グラスを掴む時、
そんなふとした時に、
もう今ではわずかに感じるばかりのあのリングが、
「コン」とか「チン」とか、
それはそれは、
小さな小さな音をたてるのです。

あの優しくて温かい記憶を引き連れて。

そしてそれがあんまりふいに訪れるから、
ぼくは準備ができていなくて、
少し泣きそうになってしまうのです。






もちろん、その記憶も、色褪せては来ています。
ただ、思いは確かに焼きつけられているんだと、
その小さな小さな音が、
今でもまだ、ふいに思い出させてくれるのです。






かつてはピカピカまばゆいばかりに輝いていたリングも、
今では淡く鈍色に色を放つばかり。

けれど、その忘れ去れ切れはしない、
わずかばかりの重みは、
今も確かに残っているのです。



この、ぼくの、

いつかより節くれだってしまった、

右手人さし指に。

 

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